DXで変わる授業風景
2020年の新型コロナウイルスの世界的大流行を機に日本国内での教育DXが加速しました。以前より、すこしずつICT教育、GIGAスクール構想は進められていましたが依然として昔ながらの黒板とノートとペンとプリント配布で行われる授業が多いままでした。それがこの1,2年で大学ではほとんどがオンライン授業に、小中学校でも一部オンライン化したり、パソコン一人一台というのが現実を帯びてくるなど急速にDXが進められています。
政府が設置する教育再生実行会議が2021年6月に発表した第12次提言では、教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)を鮮明に打ち出しました。この「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」という提言において「データ駆動型の教育への転換」が必要とし、教育データの利活用や対面授業とオンライン授業のハイブリッド化などを促すという内容が掲載されました。。驚いたことに、提言には「オンライン」という言葉何度も登場し、それだけでなく今まではあまり聞かなかった「データ駆動型の教育」までも複数回登場しています。9月にはデジタル庁が発足しますがそれを前に国を挙げてのDX推進がいよいよ熱を帯びてきました。また、それを受けるかのように文部科学省は総合教育政策局に教育DX推進室を新設するなど、データ駆動型教育への転換に向けて準備がすすんでおり教育DXが一気に進む兆しが見えています。
前述したように、2020年度より猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症が教育DXの扉を開いたともいえるでしょう。4年計画で整備されるはずだったGIGAスクール構想はオンライン授業に対応するため前倒しされ、2021年3月末の時点でほとんどの自治体で小中学生1人に1台のコンピューターが配備されるようになりました。大学の授業は全面的にオンライン化され、デジタル教材を配信するプラットフォームであるLMS(学習管理システム)の利用率が飛躍的に伸びています。
こうした下地づくりで可能になったのが、教育データの収集と利活用です。デジタル化した教材やLMSなどから収集した学習履歴、操作履歴、テスト結果などのデータは、分析することによって指導方法や教材の改善、学習者個人に合った学習方法の選択、教育政策の立案などに役立っています。これが、前述した今年の6月に教育再生実行会議が発表した提言でうたわれているデータ駆動型教育なのです。
大学における授業のオンライン化は、従来の決まった時刻に全員が教室に集まり教授の話をきくという授業スタイルを改革し、学生に多くの恩恵をもたらしたと言えます。現在ではオンラインであることを生かして海外も含めた大学間の連携やリソースの共有も可能にし、複数の大学間でオンライン授業を共通化するといった動きも出始めています。
日本の教育現場は、初等中等教育、高等教育を問わずデジタル化が遅れていました。OECDの調査において学校でのコンピューターの活用機会がダントツの最下位だと指摘する声もたびたび上がっていたことも事実です。ところが、コロナ禍によりICT環境整備が急激に進み、一気に世界に肩を並べられるような勢いとなっています。何よりも、教育DXによって従来の授業に変革を起こし新しい授業スタイルができる中で、児童・生徒、学生はより良い教育を受ける機会が与えられるとも考えられます。このまま教育DXの扉を最大限に開き、世界に追いつくために教育DXをどのように進めたらよいのか、教育関係者全員が正しく理解し、議論を深めていくことが望大事だと言われています。
出典:日経BP 教育とICT Online「教育DXが授業風景を変える(1)——オンライン化とデータ駆動がもたらす変革」